リーダーならその技術の先にある未来を語れ! 「あのカラフルなリングが意味するものは?」いまさら聞けない「SDGs」

小泉環境相のスーツの襟に光る17色のカラフルなリングのピンバッジ。最近では、このバッジをつけるビジネスマンも増え、街や職場で実際に目にしたことがある人も多いのではないでしょうか?これは、SDGs(エス・ディー・ジーズ)バッジ。先日はラジオJ-WAVEのホリデースペシャルでも9時間に渡ってこのSDGsの特集が組まれ、女性誌ananでは「気になる!SDGs入門。」の記事も。数々の関連書籍も発行され、ここ1~2年で日本でも急速に認知度が高まりつるあるSDGsについて、いまさら聞けないアレコレをひも解きます。この記事をきっかけとして、エンジニアリーダーでもつい見落としがちな世界の動きや、その技術の先にある私たちの未来を、是非メンバーたちと、語り合ってほしいと思います。

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最近よく目にするカラフルなリング状のバッジ。

「SDGs」は国際社会共通の目標。見過ごしていてはリーダー失格

まずは、教科書的な説明から。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2000年に採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)の達成期限を迎えた2015年に、国連(加盟193ヵ国/196ヵ国中)によって採択された、2030年までの15年間で新たに達成すべき国際目標です。掲げられた目標は17。それぞれの目標の下に10個ほど、全部で169の具体的なターゲット目標が示され、さらにその下に詳細な指標が全244(重複を除くと232の指標)設定される3段階の念入りな構造になっています。しかも、この達成度合いは、年1回の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」で各国から報告され、ランキングとして発表。全世界からモニタリングされる仕組みからも、目標達成への国連の本気度がうかがえます。

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発展途上国だけではなく先進国も含めた「世界の課題」を網羅したSDGsの17の目標

では、SDGsの中身をアイコンからざっと見ていきます。貧困や飢餓、安全な水といった発展途上国を語るときに出てきそうなキーワードから、働きがいや技術革新、住み続けられるまちづくりといった日本に住む私たちにも身近な問題。さらには、気候変動や平和といった地球規模のマクロな視点まで……。

 

SDGsには、私たちが今直面しているあらゆる社会的課題が網羅されていることがわかるでしょう。そして、このSDGs達成のために欠かせないものとして大きな期待を寄せられているのがAIやIoTといった最新テクノロジーの活用です。

たとえば、日本政府は「SDGsアクションプラン2019」の中で、取り組みの3本柱のひとつに「SDGsと連携する『Society(ソサエティー)5.0』の推進」を置いています。また、日本の政財界に大きな影響力を持つ日本経団連は、2017年にSociety 5.0の実現を通じたSDGsの達成を柱として企業行動憲章を改定。「Society5.0 for SDGs」を合言葉に、 AIやIoT、ロボットといったテクノロジーを使ってSDGsに本気で取り組む姿勢を打ち出しました。実は多くのエンジニアが積極的にかかわっているのです。

グローバル企業の危機感の高まりと価値転換

日本経団連の動きからも見えるように、SDGs達成をけん引するのは、政府やNGO、NPOなどの非営利団体だけではありません。国連は、前回の目標MDGsとは違い、本来自社の利潤を追求する立場にある民間企業に対してSDGs達成に「それぞれの中核的な事業を通じて貢献する」ことをはっきりと求めました。実は、これは一方的な通達ではありません。SDGs策定プロセスにおいては、民間企業の意志も強く反映されているのです。

 

スイスのダボスで年に一度、世界の政財界リーダーが集う「世界経済フォーラム」。その年次総会である「ダボス会議」の名称に聞き覚えはありませんか?今年1月の会議では、スウェーデンの17歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんも演説を行いました。

この経済フォーラムでは毎年「グローバル・リスク・レポート」が発表されています。これは、世界経済に対する主要リスクを分析したもので、主なリスクを「発生の可能性」と発生した際の「影響の大きさ」でランキング。このトップ5の過去14年間の推移をみると、2011年頃から上位の経済リスクに「環境(緑色)」「社会(赤色)」の割合が増えていくのがわかります。経済発展を追求した結果として引き起こされた環境問題や社会問題が、今や世界経済の発展を阻むリスクとなっている。つまり、「経済発展の追求が経済発展を妨げる」という皮肉な状況に陥りつつあることをダボス会議に集う政財界のリーダーたちは早くから気づいているのです。

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出典:World Economic Forum, Global Risks Report 2009-2019, Global Risks Reports.

また、同じく2011年には、「CSV(Creating Shared Value)」=「共通価値の創造」という次世代の経営モデルがハーバード大学経営大学院教授のマイケル・E・ポーター氏らによって提唱されています。企業が社会的な課題の解決を事業運営の根幹に置いて取り組み、社会価値と経済価値を同時に生み出していくことが、企業利益の最大化につながるという考え方です。本業の利益を社会的課題の解決に還元する慈善事業的な「CSR(Corporate Social Responsibility)」=「企業の社会的責任」とは違い、社会的課題の解決をエンジンとして利益を上げていくのがCSV。提唱された2011年にはすでにこのCSV経営モデルを用いて1兆円規模の事業成長を遂げていた巨大コングロマリットもあり、その他のグローバル企業追随することで、社会的課題の解決と経済成長の両立は実現不可能な理想論ではなく、むしろ市場での競争力を高めるために必要不可欠な戦略であると認知されていきます。そしてこの価値転換をリードしたグローバル企業たちがSDGsの策定にも積極的に関与したのです。

SDGsが加速させた市場の変化

もちろん、投資家の意識も大きく変わり始めました。財務情報をみるだけではなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した企業を選んで投資するESG投資が年々拡大を見せています。日本でも、160兆円超を運用する年金積立金管理運用独立行政法人が2017年からESG投資を開始し、4大銀行も相次いでESGを重視した融資方針を打ち出しています。ヨーロッパやカナダ、ニュージーランド・オーストラリアではESG投資が全体に占める割合はすでに5割~6割となっていて、日本でも2016年の3.4%から2年で18.3%と一気に増えました。たとえどんなに利益を出していても、環境や社会への負荷が高いと判断された事業への資金調達はどんどん難しくなっていきそうなのです。

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国・地域別の運用資産全体に対するESG投資の割合 ※2014年時、日本はアジア全体に包括されており、データがない。 出典:GSIA 2018 Global Sustainable Review

また、消費者の企業に対する目も厳しくなってきています。世界最大のPR会社エデルマンが行っている消費者意識調査「Earned Brand 2018」によると、グローバルで65%、日本でも60%の人が「世界で物議をかもしている話題に対する企業姿勢を理由に製品やサービスの利用を決めたりボイコットしたりする」と答えています。前年比では日本が+21ポイントで調査対象の8カ国(ブラジル、中国、フランス、ドイツ、インド、日本、イギリス、アメリカ)中もっとも大きな伸びを示しています。

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出典:2018 Edelman Earned Brand. Belief-driven buying segments. 日本

つまり、「いくら便利でも、従業員を使い捨てにする企業の商品は使わない」とか、「どんなに美味しくても、大量のフードロスを出す企業は信用ならない」とか。さらに一歩進んで「自然環境を守ってつくられた商品を選ぼう」とか…そんな風に信念をもって買い物をする消費者が増えているのです。

 

このような流れを敏感に感じ取った企業は、本業を通じて社会的課題の解決に乗り出し、企業の社会的価値を高めることで成長を目指す方向へと舵を切り始めました。たとえば、コンビニ大手ファミリーマートは、昨年初めて土用の丑の日のウナギ弁当を完全予約制で販売しました。この取り組みでファミリーマートは、フードロスを大幅に減らすとともに廃棄費用を削減し、加盟店の利益を約7割増加させたそうです。

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近年よく耳にするのが、プラスティック廃棄物による海洋汚染

また近年大きく取り上げられているのが、プラスチック廃棄物による海洋汚染。スポーツ用品メーカーのアディダスは、回収したプラスチック廃棄物を織糸に加工し、シューズやアパレル製品をつくって2016年から実際の商品として販売しています。同じく、コーヒーチェーンのスターバックスは、プラスチック製ストローを廃止し、紙ストローを順次導入しています。そのほか、エコバックの活用や企業の働き方改革、女性活躍推進への意識の高まりも、その背景には民間企業まで巻き込んだSDGsという世界的な目標があると言えるでしょう。

期待される最先端テクノロジーの活用

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「Society5.0」とは「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済的発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」 出典:経団連 Society5.0 for SDGs  Society5.0とは

では、SDGs達成に向け、テクノロジー企業やエンジニアは具体的にどのような動きを始めているのでしょう。「Society5.0 for SDGs」を掲げる経団連参加の大手企業はもちろんですが、実は数々のスタートアップ企業が、テクノロジーの活用によるSDGs達成に名乗りをあげているのです。

 

その盛り上がりや本気度を感じられるのが、「テクノロジーで社会課題を解決する」ことをテーマに行われている世界最大のピッチコンテスト「EXTREME TECH CHALLENGE(XTC)」です。このXTCはSDGs策定の2015年から開催され、その決勝はフランス・パリで開かれる欧州最大の技術の見本市「VIVA TECH」(参加企業1万3000社、来場者数12万4000人/2019年実績)のメインステージで行われます。決勝参加企業がXTC後に調達した資金はこれまでにトータルで440億円以上。今まで日本企業の参加はありませんでしたが、今年遂にパリへの2枚の切符をかけ、日本予選が開催されました。

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XTC JAPAN2020 残念ながら当日はコロナの影響で無観客(関係者のみ)での開催となった

日本予選に臨む企業は10社。その枠に今回61社の応募がありました。XTC JAPAN2020運営事務局の事務局長を務める株式会社ガイアックスの千葉さんは「日本での知名度はまだまだ低いコンテストながら、注目度は思った以上に高かった」と語ります。「観戦チケット300枚は予定の期限の1ヵ月前に完売。協賛をお願いした企業様は新規事業開発に取り組んでいらっしゃるところも多く、『テクノロジーによる社会課題の解決』には熱のある視線を寄せて下さり、あっという間にスポンサーも決まりました」(千葉さん)

「技術の先を見る」視線が、未来を拓(ひら)く

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VIVA TECHは中止となったが、XTC決勝は7月15日にオンラインで行われた。興味のある方はこちらから視聴可能 https://extremetechchallenge.org/finalists

当日登壇した9社(1社は辞退)はすべてAIやIoT、ロボティクスなどの最先端技術を用いた独自のサービス・プロダクトでSDGsに掲げられる世界的な社会課題の解決に挑もうとしている企業です。

 

「個人的に印象に残ったのは、理系の方、研究者や技術者がけん引するスタートアップです。今回参加の半数以上がそうでした。『自分たちが今持つ技術をとことん突き詰め、この技術のここを改善すれば、こんなこともできるんじゃないか、それが未来を拓くんじゃないか』そんな彼らの熱量に圧倒されましたね」(同)

 

FINALISTは、超小型衛星の打ち上げにより地球全土の詳細な画像データ解析を行い、農業や林業、インフラ分野での事業拡大を狙う株式会社アクセルスペースと、3DプリンタとAIにより、超格安の義足(従来の1/10の4万円)を実現させたインスタリム株式会社。この2社も、若きリーダーのもとに情熱を持ったエンジニアたちの集う理系スタートアップです。

 

コツコツと技術を突き詰めるだけではなく、その技術がどう社会に活きるのかを考える。この「技術の先を見る」視線こそ、リーダーとなるエンジニアに求められる資質ではないでしょうか。チームを引っ張るとき、後輩を指導するとき、ただ「これをやってくれ」「この技術を身につけなさい」では誰も納得しないでしょう。この技術を身につけた先に何ができるのか。どんな将来が描けるのか。広い視野を持ち、夢や目的を語れるリーダーにこそ、人はついていきたいと考えるものです。

 

そんなリーダーを目指す一つのきっかけとして、このSDGsをとらえてみるのもいいかもしれません。「世の中にはこんな課題があって、こんなにたくさんの人がそれを解決しようと頑張っているのか!」それを知るだけで、そして自分事としてとらえるだけで、少し視野が開けていくのではないでしょうか。そして、それはきっと、あなたのエンジニアとしての将来も拓いていくはずです。(E-30!!!編集部)