AR/VRがもたらす未来って? エンジニアリーダーとしてどのように向き合うべきか、 その驚異的な「効果」について

近頃、新聞やニュースで「withコロナ」といったキーワードを当たり前に耳にするようになりました。緊急事態宣言が解除になり、いよいよ各都道府県の往来が解禁になったとはいえ、私たちはこれからも、新しい価値観・新しい生活様式を取り入れ、新型コロナウィルスと共存していかなくてはなりません。

 

そのためには、トライ&エラーを繰り返しながら「withコロナ」時代に合った新しい生活様式=ニューノーマルを模索していく必要があります。そのような動きが始まりつつある中で、いちはやく「AR/VR技術」が各業界で大きな注目を浴びています。これはエンジニアリーダーとして、今押さえておかなければならないキーテクノロジーでもあり、これらの技術を活用してメンバーを指導しなければならない日がすぐそこまで来ています。

 

リーダーのあなたなら分かるはず。テレワーク、Web授業…その次は?

オンライン化が急速に進んだ業界のひとつとして、教育業界があります。オンライン教育ツールは以前からあるものの、地域や個人によるオンライン環境の差などの理由でなかなか導入が進んでいませんでした。しかし、今回のできごとをきっかけに、急速にオンライン化を求められる環境となりました。

 

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急速に進んだオンライン化

テレワークや教育のオンライン化は、都心・地方などの生活環境による差を埋めることができ、周りに合わせることなく自分のペースで進められるため効率的な習得が望めるといったメリットがあります。このような環境が定着すれば、私たちの能力や活躍の幅をさらに拡げる手助けとなるでしょう。

 

とはいえ、各業界において「どのようなやり方が最も効果的なのか?」と、試行錯誤する日々が続いていることも確かです。例えば“教育”を例に挙げると、予め講義内容を録画し、配信された動画を見て学ぶといった学習形式を活用している学校や塾は多くあります。しかしながら、好きな時間に、場所を選ばず、繰り返し何度も学べるメリットがある反面、コミュニケーション不足や緊張感の欠如といった問題点にぶつかるようです。そこで、このような課題を解決すると同時に、より大きな効果を見込めるツールとして、「AR/VR技術」が各業界で注目されているというのです。

 

AR/VRは時空を超える!?

現実世界を拡張するAR、仮想現実空間に没入することが可能となるVR。それらは、「“リアル”を超える“リアリティ”を追求する技術」とも呼ばれています。

 

AR/VR技術は私たちの生活にいったいどんな効果をもたらすのか。AR/VRエンジニア育成事業をはじめ、AR/VRソリューション事業を手掛ける株式会社クロスリアリティの田中裕実子さんにお聞きしました。

 

▼過去のクロスリアリティへの取材記事はこちら

e30.sus-g.co.jp

 

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株式会社クロスリアリティ 田中裕実子さん

 

──近年、IT以外の業界でもAR/VRを取り入れたというニュースを耳にするようになりました。このような動きは、最近になって活発になったのですか?

 

田中:元々、これらの技術の起源は1960年代に遡ります。我々と事業提携を行っている米国EON Reality社(以下EON社)では、約20年前から研究を重ねてきました。日本ではまだゲームなどの個人利用が圧倒的多数を占めていますが、海外では既に幅広い業界で導入が進んでいます。

 

──日本では特に、企業におけるAR/VR導入が遅れていると耳にしますね。世の中がテレワークへ移行することで、クロスリアリティに寄せられる声にも変化はありましたか?

 

田中:AR/VRを、業務に取り入れたいといった問い合わせもだんだんと増えてきましたね。新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、必要性がより大きくなったと思います。たとえば、「出社しなくてもどこでも学べるツールはないか」といった要望をいただいたり、このような環境だからこそ、こういう技術を取り入れたいといった声が増えたように感じますね。

 

── 具体的にどういったニーズが寄せられていますか?

 

田中企業のXR(AR/VR/MR/SR等の総称)使用用途は、国内外ともに“トレーニング”がトップです。当社に寄せられる問い合わせもトレーニング用途が多く、医療や教育機関などの問い合わせが増えています。

 

── 以前の取材の際にも、米国小売大手ウォルマートのVRトレーニングの事例のお話がありましたね。

 

田中:XRを用いたトレーニングは、生産性向上や集中力、記憶力の維持などあらゆる面において非常に大きな効果があることが証明されているんです。EON社では、石油ガスの自動化制御や計測を行なう企業に対して、ケーブルや電力障害等のさまざまなシナリオをシミュレートしたXRトレーニングを提供した事例があります。そこでは通常のトレーニングに比べて、スキル保持率が100%向上、さらにトレーニング時間が最大66%短縮したという結果が得られたそうです。

 

──それは絶大な効果ですね!日本での活用事例ではどういったものがありますか?

 

田中:最近では手軽さからARの活用事例が多いですね。例えば、客先で保守や修理作業を行う作業員にスマートグラス(眼鏡型端末)を装着させ、遠隔地から作業員に指示を出し従業員を支援するサービスを開始した企業があります。保守作業のトラブルを25%削減できただけでなく、作業1件あたりの平均作業時間の削減、作業員の心理的な負担軽減、作業風景の見える化による改善指導など、さまざまな面で効果があったと報告されました。

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XR技術は絶大な効果を発揮する(EON社提供イメージ)

──オンライントレーニングやオンライン授業などWeb上で行うものと比較して、XRは何が違うのでしょうか?

 

田中:XR技術を用いて、現場そのものの空間を作り出すことで、従来の方法よりも圧倒的な没入感を感じることができます。つまり、より実体験に近い感覚のまま、必要な情報や作業手順などをインプットすることが可能となったんです。だからこそ、ユーザーエンゲージメントが高くなり、自律学習にも向いていると思います。加えて、誰でも同じ条件でスキル豊富なベテランの技術や、災害などの危険なシチュエーションを安全に学習することが可能となるため、トレーニングに割く人員・工数・費用の削減もでき、効率化にも繋がります。また、同じ仮想環境上で、インタラクティブに対話ができたり、共同作業も可能になります。百聞は一見にしかずなので、例えばEON社のARソリューションを用いた共同学習の映像を見てみてください。

 

 

 

──なるほど。近い将来、さまざまな場面でAR/VRが活用されていきそうですね。ちなみに今後、クロスリアリティとしてはどのような技術を提供されていく予定ですか?

 

田中:まずは、EON社の主力ソフトウェア「AVRプラットフォーム」をはじめ、XR関連のハードウェア、ソフトウェア販売やアプリ開発などのトータルソリューションを企業や教育機関様向けに提供していければと思っています。同時に、施設所在地である東映様はじめ、地元企業や教育機関と、京都拠点ならではの取り組みも行っていければと考えています。

 

──「AVRプラットフォーム」にはどんな機能があるんですか?

 

田中:「AVRプラットフォーム」の3つの機能のうち、「クリエイターAVR」は、技術者でなくとも簡単にAR/VRのレッスンコンテンツが作成できるツールになります。内包するライブラリ上の3Dアセットを用いることで、ユーザー自身が注釈、音声、クイズなどを追加できるんです。それだけでなく、AR/VRのYouTube的プラットフォームということも特徴ですね。具体的には、ユーザー自身が新規で3Dアセットや360°写真、動画などを取り込み、AR/VRレッスンを作成・ライブラリに追加できるUGC(ユーザー生成コンテンツ)機能です。講師側もPCかスマホさえあればレッスンコンテンツを簡単に作成でき、生徒側もスマホでどこでもトレーニングができるので、withコロナ時代の学習や企業でのトレーニングに向いていると思います。

 

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クリエイターAVR(EON社提供イメージ)

──さいごに、田中さんが描くXR活用の未来をお聞かせください。

 

田中:多くの人が最新技術を難なく活用できる未来になればいいなと思います。それが、日本で深刻化している人口減少や団塊世代の退職に伴う人手不足、次世代育成に悩む企業や社会課題の解決にも繋がるようなソリューションとなればいいですし、そういったソリューションを提供していきたいと思います。EON社の創業者兼会長のダン・レジャースカー氏は、「知識を得ることは人権だ」をモットーに、世界22か所にIDCというAVRの研究開発センターを設立されています。ビジネス視点のみならず、「誰もが当たり前に最新技術や知識を得られる環境づくり」も意識されていて、私もその考えには共感しています。XRのような高度技術を活かし、それが企業や社会貢献に繋がる、今だからこそ必要なソリューションなどを提供していきたいですね。

 

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東映京都撮影所内に位置する『VRIA京都』外観。8月からショートコースを開校予定

──『VRIA京都』の開校も目前ですから、今後がとても楽しみですね!

 

田中:VRIA京都でのアカデミー事業も、新型コロナウィルスの影響でEON社講師が来日できず、開校が延期となりましたが、海外から講師がリモートで講義を行なうショートコースを8月から開校する準備を行なっています。AR/VRの開発者育成コースにご興味ある方は、ぜひVRIA京都のウェブサイトもチェックしてくださいね。

 

──お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました!

 

 

新技術と向き合うエンジニアに求められる能力

XR技術を活用することで、より豊かな未来が待っていることを実感できた取材でした。最近では不動産業界がVR技術を部屋の内覧に取り入れたことが注目され、5月19日には「バーチャル渋谷」がオープンしたことも大きな話題となりました。これまで映画などでフィクションとして描かれていたような、現実世界と仮想空間の行き来は既に目前なのかもしれません。

 

XRを活用したトレーニングは、田中さんのお話にもあったように、「最先端の学習ツール」として、いよいよ各企業で本格的に導入されはじめています。例を挙げると、大手電気機器メーカーである株式会社明電舎では、世代交代による熟練者の減少や、新型コロナウィルスによる工場内での研修開催が困難なことから、10月に開設予定の研修拠点にてVRを導入するといった発表がありました。これにより、前述の課題解決が臨めるだけでなく、省スペースで幅広い研修メニューを展開できる可能性があります。さらに、今後は社員が遠隔で研修を受けられる仕組みもつくっていく予定だそうです。

 

本記事でお伝えしてきたように、AR/VRには我々の想像をはるかに超える可能性が秘められています。リーダーには、今後積極的にこうした先端技術の習得をおこない、それらを使いこなすことで後輩の能力を飛躍的に高めていく、といった役割が求められることになるでしょう。AR/VR技術のような、今は革新的な技術を“あたりまえ”のものにして、これからの事業や企業の成長につなげていくために、仲間を率いる立場として「最先端技術を活用する能力」が、今、必要とされているのではないでしょうか。

 

(E-30!!!編集部 安達)

 

 

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