「やっぱりリーダー、やらなきゃダメ?」キャリア形成に迷う若手エンジニアに贈るリーダーシップ本

「リーダーにならないと、収入は頭打ち?」「年齢が上がる程、リーダー経験が重視される?」もしあなたが突き抜けた天才的エンジニアじゃない限りは、おそらく答えはYES。

下図は、経済産業省が実施した『IT産業の給与等に関する実態調査結果』にある「企業内で最高水準の年収を達成している人材は、何を評価されているのか」の年齢別達成要因を表したデータです。

出典:IT産業の給与等に関する実態調査結果|経済産業省

「高い実務的技術力・それに基づく実績(赤グラフ)」と入れ替わるように、年齢が上がるとともにグングン伸びていくのは「高いマネジメント能力・それに基づく実績(黄緑グラフ)」。この調査は2017年のものですから、コロナ禍によるIT需要の急拡大とともにエンジニア不足も広がっている2022年の今は、マネジメント能力が求められる年齢もさらに若くなっているかもしれません。

それを示すかのような、非常に怖いデータが下記。「エンジニアtype」による30代前半のSEを対象にした2020年の年収調査です。

出典:【調査&検証】30代SEの年収が二極化。 転職で「年収600万円以上」を叶えるためには?|エンジニアtype

年収300万円未満が38.5%、年収600万円以上も34.5%とほぼ同率で二極化しています。これをtype転職エージェントの有田さんは、「年収600万円以上の方は、マネジメント寄りの業務を任されている可能性が高い」「一方、200万円代のSEの方は、作業者レベルの仕事が中心になっているのではないか」と分析されています。

あなたは30代を迎えたとき、マネジメント側、作業者側のどちらにいるでしょうか?それを分けるのが、20代でのリーダー、サブリーダー経験です。キャリアを築くために、怖くても一歩踏み出したい。そんな若手エンジニアに贈るリーダーシップ本をご紹介します。

 
 

 

理系の強みを活かしたリーダー像が描ける!

『「理系リーダー」の教科書』晴瀬ワカル/大和出版(1500円+税)

 

おススメポイント①
一度はリーダーを挫折したソニーの現役エンジニアが著者
おススメポイント②
理系人間ならではのリーダー像を、理系人間ならではのアプローチで目指す方法が学べる
おススメポイント③
「これならできそう」「挑戦してみてもいいかも!」という気にさせてくれる

「リーダーとして成果を出していきたい!」と意気込んでいる方にはマニュアル本として、「リーダーなんて自分には無理そう」「実際に無理だった」という方には目からウロコの啓発本として役立つ1冊。

著者の晴瀬氏はソニー株式会社の現役シニア・エンジニア。子どもの頃からPCゲームやオーディオ組立など一人でコツコツできることが好きで、「あまり接点のない人に対しては、話をすること自体、負担」なほどコミュニケーションは不得意だったそう。そんな著者が、プロジェクト拡大で2名のメンバーを抱えるチームのリーダーを任されたのが事の始まりです。心の中では「自分でやってしまった方がどんなにラクだろう」と思いながらも、会社の期待に応えようとなんとかリーダー業務に取り組んだ半年間。とうとう仕事が回らなくなり、「これ以上迷惑を掛けられない」と自ら申し出てリーダーを降りられたのです。

しかし、その後しばらくして再びリーダー業務に向き合わざるを得ないときがやってきます。「現部署でエンジニアから一時的に外れるか、他部署でエンジニアのリーダーをやるか」。組織改革を進めていた会社から、選択を迫られたのです。「リーダー業務から逃げ出したままでいいのか?」そう自問した著者は、ここでついに一念発起。社外セミナーでコミュニケーションを学び始めてリーダーに再挑戦し、最終的には約20名のプロジェクトを10年以上にわたって率い、チームは社内で賞を受賞するまでになられたそうです。

この本では、その過程で気づいた7つの「理系人間特有の傾向」(①基本的に1人で仕事を完結させることが好き ②完璧主義でこだわりが強い ③理論的である ④分析力がある ⑤効率を重視する ⑥心配性・神経質である ⑦人に頼んだり指示したり断わったりすることが苦手)を踏まえて著者が実践した、「理系が目指しやすいリーダー像」が展開されていきます。

著者が真っ先に捨てるべきと言うのは、「あるべきリーダー像へのこだわり」。理系人間の傾向が強い人に、カリスマ経営者からイメージするような「自信満々で人を率い」「強く」「強烈な魅力のある」リーダーにはどうせなれないと戒めています。「理系人間にも目指しやすいリーダー」とは、先頭には立たず、指示をどんどん出したりせず、ただ、メンバーを主役に据え、チームの裏方として「ペースメーカー」となるリーダー。上司と部下のような上限関係ではなく、ひとつの役割としてリーダーを捉え、メンバーを「いまの調子で進めていけばいいんだな」と安心させる存在なのだそうです。

とは言え、リーダーとなれば否応なく人との関わりは増えるため、コミュニケーション能力の大幅なアップデートが必須です。著者も「人に頼んだり指示したり断わったりすることを負担に思う傾向が強い理系人間にとっては、いままで避けてきたことに向き合う必要が出てくる」と改めて覚悟を求めます。

そこで利いてくるのがコミュニケーション能力の向上に「理系人間ならではのアプローチ」で臨む手法。理系の「高い分析力」や「理論的である」という特長をコミュニケーションの基礎に置き、メンバーの改善点発見やモチベーションアップに活かしていくのです。逆に、理系の「完璧主義」や「効率重視」といった傾向から陥りやすい罠なども上げられています。

さらに実用的なのは、ひと癖もふた癖もある理系人間特有の傾向を持ったメンバーへのタイプ別コミュニケーション法が紹介されていること。「年上」「同期」「一匹狼」「完璧主義」「ミス多発」……。思い当たるメンバーがいれば、カタチから入ってちょっと試してみる。そこからマニュアルにはない、あなたなりの気づきを得ることもあるはずです。

この本で、著者が表現を変えながら繰り返し強調するのは、リーダーが描くべき最終的なゴールを間違えてはいけないということ。ゴールは、ズバリ「チームで成果を出すこと」であり、あなたが成果を出すことではないのだそうです。「自分がうまくリーダーをやるためにはどうしたらいいか」という視点から、「どうすれば自分のチームのメンバーが気持ちよく仕事をやることができるのか」という視点へ。「自分視点」の強い理系人間が、「相手視点」へと視野を広げるヒントが満載の文字通り『「理系リーダー」の教科書』。心配しなくても、チームで成果を出せば、おのずとリーダーに光が当たるもの。そのとき、あなたの目には、必ず今とは違う景色が見えているはずだと記されています。

 

「メンバーをコントロールできる」という幻想を捨てる

『叱らない、ほめない、命じない。あたらしいリーダー論』岸見一郎(構成・編集 小野田鶴)/日経BP(1800円+税)

 

アドラー心理学の第一人者であり、哲学者である岸見氏。ベストセラーとなった『嫌われる勇気』の著者のリーダー論です。大前提にあるのは「リーダーと部下は対等である」という考え方。『「理系リーダー」の教科書』にも出てきた「リーダーとは一つの役割」という捉え方を、課長に昇進した「わたし」が次々に直面する壁を先生との対話で解決していくという一連のストーリーを通じながら、心理学、哲学、経営学の学説に基づいて深めていきます。

数名のチームをまとめ始めた初心者リーダーよりは、ある程度のリーダー経験があり、マネジメントへと進もうとしている方におススメ。「心理的安全性」や「サーバント・リーダーシップ」など、近年、組織経営でよく耳にする内容についても学べます。面白いのは、「上司は嫌われる勇気を持ってはいけない」という点。メンバーが読めば、「ああ、うちの上司がこれを読んでくれれば……」と思われてしまうかもしれません。後半には、サイボウズ、ユーグレナ、カヤックという躍進する注目企業の経営者との対談も掲載された全423ページ。毎日少しずつ読み進めたい、読み応えバッチリの1冊です。

 

多様性の時代に輝く、自信のなさという「強み」

『なぜ自信がない人ほど、いいリーダーになれるのか』小早川優子/日経BP(1500円+税)

 

リーダーへの昇格を打診されたとき「自信がありません」と尻込みをしてしまう女性たち。そんな女性たちに、著者は「それはあなたが置かれた環境に、そう思い込まされているだけでは?」と問いかけます。ビジネスの世界ではまだマイノリティである女性を取り巻く、様々なバイアスを自覚したとき、あなたはそこから自由になれる!「自信がないという思い込み」を捨て、リーダーに挑戦することは人生に多くのメリットをもたらすと提示される内容は、どれも納得のものばかりです。

さらに、著者が強調するのは「自信がない」と感じる立場にいたからこそ、発揮できるリーダーシップがあるということ。第二章から四章はそのための武器を身につける考え方や具体的な手法で構成されています。女性管理職育成・交渉コンサルタントによる女性のためのリーダー論ですが、読めば「そもそも自信のなさとはなんなのか」というところから考えさせられます。リーダーになることを躊躇する女性はもちろん、女性をチームで活躍させたいと考えているリーダーにもぜひ読んで欲しい1冊です。

 

失敗も財産になる。リーダー経験はエンジニア人生に新たな可能性をもたらす。

実際「一人でコツコツ取り組むことが好きだからエンジニアを目指した」という方も多いでしょう。そんな方が、自らリーダーを目指すというのはなかなかハードルが高いことだと思います。それでも『「理系リーダー」の教科書』の著者の晴瀬氏は、自らの経験から「リーダーとなったことで視野が圧倒的に広がった」「リーダーとして苦労した経験は一生ものの財産になる」と語っています。20代という人生の早いうちにリーダーやサブリーダーを経験することは、その後の長いエンジニア人生で活躍していくための素地を広げ、選択肢を増やしてくれることに繋がります。たとえその挑戦がそのときは失敗に終わったとしても、リーダー経験を通じて得た自分への新たな気づきはあなたの財産として残るはずです。それを新たな土台にまた、自分に合った自分らしいやり方を探していけばよいのです。

この記事を読もうと思ったあなたの人生には、すでに「リーダーとして力をつける」という新たな選択肢が表れてきているのです。それを前向きに受け止め、まずはトライしてみましょう。そこから思いもかけない自分を発見し、エンジニアとしての可能性が広がっていくかもしれないのですから。

 

(E-30!!!編集部)

 

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