目次
- 中堅エンジニアは「ヒューマンスキル」を重要視する
- なぜ若手エンジニアはヒューマンスキル向上から目を背向けるのか?
- 30代になると、もうヒューマンスキルは指導してもらえない
- 20代がヒューマンスキルを鍛えることは難しくない
- 第4次産業革命の激流をヒューマンスキルで乗り切ろう
中堅エンジニアは「ヒューマンスキル」を重要視する
ここに興味深いデータ(表1)があります。エン・ジャパンによる35歳以上のエンジニア358名に対するアンケートによると、「第4次産業革命によって職を失う不安を感じるか?」という問いに対して「不安がある」と答えた人は全体の34%を占め、いま世界が迎えている大きな変化に対して多くの中堅エンジニアが危機感を抱いていることがわかります。
さらに目を引くのが次のデータ(表2)です。これも同じ対象のエンジニアへのアンケート結果ですが、「今後、働き続けていくために必要だと思うことは?」という問いに対して、2位の「先端技術に関する知識・スキル」、3位の「テクニカルスキル」を抑えて第1位となったのはなんと「ヒューマンスキル(対人間関係力)」であり、2位以下を大きく引き離しています。さらに詳しく見ると、4位「変化に対応できる柔軟な思考」、5位「コンセプチュアルスキル」、6位「学び続ける姿勢」、8位「マネジメントスキル」なども、ヒューマンスキルから派生するスキルと言えます。
つまり中堅エンジニアの多くが、第4次産業革命という社会の大変革を乗り越えるために、テクニカルスキル以上にヒューマンスキルを強く重視しているということがわかります。しかしながら20代のエンジニアの多くは、ヒューマンスキルよりも、テクニカルスキルを磨くことに多くの時間を割く傾向にあります。一体それはなぜでしょうか。
なぜ若手エンジニアはヒューマンスキル向上から目を背けるのか?
ここで、この2つのスキルの特徴を比較してみましょう。ヒューマンスキルの7〜8割は対人場面で必要とされるため、人間関係力と置き換えてイメージしてもらえれば良いと思います。
テクニカルスキルの習得では、例えば将来はあんな開発がしたいなと思えば、そのためにどんな言語や技術を学べば良いかが明確な上に、コツコツ勉強さえすればいい訳で、取り組みやすいという特徴があります。また、スキルが身についたことが分かりやすく、資格取得にもつながるのでモチベーションも維持できます。
一方、ヒューマンスキルにおいては、あの先輩みたいになりたい!と思っても、いったい何にどう取り組めばいいのかわかりにくく、スキル向上度が数値で表われることもなく、手応えを感じにくいものです。ヒューマンスキルの場合も研修を受けたり、書籍を読むことで知識を学ぶことはできますが、結局のところは実際の対人関係において身につけるしかありません。人とのコミュニケーションを増やしていくと、ときには辛い思いや悲しい思い、恥ずかしい思いをしたり、相手を傷つけたり、相手から傷つけられることもあるでしょう。あえていうならば、そういった「心の痛み」を伴う経験の中でしか、身につかないのがヒューマンスキルです。
理工系の場合は、文系と比較すると仕事をしていく上で明確なテクニカルスキルが求められるため、そもそもそのスキルアップに注力してしまう傾向があります。ただそれ以上に、初めて社会に出てビジネスコミュニケーションの難しさに直面し、ますますテクニカルスキルに逃げ込んでいくケースがとても多いのが事実です。さらに、昨今は仕事とプライベートを切り分ける風潮が根付いており、仕事以外での付き合いの中で得られたヒューマンスキルをオンビジネスで磨く機会が、ますます減少している傾向にあります。そういったいくつかの理由から、ヒューマンスキルを積極的に身につけようとしないエンジニアが多くなっているのだと思われます。
30代になると、もうヒューマンスキルは指導してもらえない
ここで非常に重要な事実を提示したいと思います。「30代になってしまうと、もう周囲はヒューマンスキルを指導してくれなくなる」ということです。もちろん、厳密に言えば何歳になっても学ぶことは可能ですが、以下の2つの理由から私はあえて、ヒューマンスキルは20代までに鍛えておくべきであると断言します。
理由その① 20代は吸収力が高い。
20代はまだまだ対人関係において成功体験も失敗体験も多くありません。そのため考え方が柔軟で、教えられたことを「そういうものか」と素直に受け入れることができます。すると、教える側も手応えを感じてより一層指導に熱が入る、という好循環が生まれます。逆に、さまざまな経験を積んだ30代以降では、その人なりの考え方や行動様式が確立されているので新しい指摘などを受け入れにくくなっていき、教える側ももう本腰を入れられないのです。
理由その② 30代からは周囲の期待が異なる。
30代になれば、周囲は基本的なヒューマンスキルについてはすでに十分に習得していると考え、さらに上位のスキルであるリーダーシップスキルやマネジメントスキル、コンセプチュアルスキルなどを身につけることを期待するようになります。この段階から基本的なヒューマンスキルを身につけるには、よほどの覚悟を持ち、かなり積極的に自ら機会を求めていかなければなりません。
20代がヒューマンスキルを鍛えることは難しくない
経済産業省が2008年に提唱した「社会人基礎力」によれば、ヒューマンスキルとは「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されています。この中で「考え抜く力」については、理工系出身の人たちはすでに強みとして持っているケースが多く、その点では文系出身の人たちより有利でしょう。
ここでは「前に踏み出す力」と「チームで働く力」について考えてみたいと思います。「前に踏み出す力」は「主体性」「働きかけ力」「実行力」の3つの能力で構成されています。これらを要約すると、指示待ちにならず、一人称で物事を捉え、自ら行動できるようになることです。社内には「前に踏み出す力」を高める機会はたくさんあります。特に「わかりません」と聞けるのは若者だけの特権です。まずは、目の前にいる上司や先輩に「教えてください!」「相談に乗ってください!」と言ってみてください。もちろん、うまく指導してもらえずに悩むこともあるでしょう。けれど、失敗すらも一つの前進と捉えることでこそ「前に踏み出す力」は鍛えられます。
「チームで働く力」は「発信力」「傾聴力」「柔軟性」などの6つの能力で構成されています。協調性だけにとどまらず、多様な人々とのより効果的な協働を生み出す力が求められます。こちらもまずは、自分の考えや取り組みを誰かに伝えることから始めてみてください。そのときに自分の意見を主張するだけでなく、相手の意見をきちんと受け止め、立場の違いを理解することに努めてみましょう。視界が広がって相手と理解し合う喜びを感じるはずです。その喜びを関わる人たち全体に広げていき、仲間として目標に向けてさらに強く協働することこそ、「チームで働く力」につながっていくのです。
第4次産業革命の激流をヒューマンスキルで乗り切ろう
第4次産業革命がはじまり、世の中はますます大きく変わっていきます。すでに技術革新のスピードはこれまでと比べ物にならないほど速くなっています。新しい技術をキャッチアップすることはもちろん重要です。ただし、どんな技術もあっという間にコモディティ化され、時代遅れになってしまうリスクがあります。長年かけて身につけた知識や技術が、一瞬にしてAIに取って代わられることもあるかもしれません。
これからエンジニアとしてのキャリアを築いていく皆さんが、第4次産業革命の激流に流されないためのカギとなるのは、やはりヒューマンスキルなのです。あなたが将来リーダーを目指すなら、コミュニケーションから逃げることなく、ヒューマンスキルを少しずつでも高めていく努力を続けていってください。そうすることであなたのエンジニアとしての可能性はどこまでも広がっていくはずですから。
(E-30!!!編集部 宮崎健)